堺を巡る おすすめモデルコース#3 伝統の古式鍛錬にのっとり火造り・鍛造。切れ味と美しさを極めた堺の名鍛冶。

水野鍛錬所(みずのたんれんじょ)

堺市堺区桜之町西1-1-27
TEL:072-229-3253
営業時間:9時~18時
URL:http://www.mizunotanrenjo.jp

定休日:不定休(原則 土・日・祝)
交通:阪堺線綾ノ町駅北徒歩5分
※古式鍛錬による実演は平成20年6/11・10/8のみです。(要予約)

法隆寺の依頼により魔除け鎌を鍛造奉納し、学生相撲選手権優勝者の刀を鍛刀する由緒ある鍛冶屋。

「今や昔ながらの鞴(ふいご)を使い、真っ赤に焼けた鋼を鍛え上げるのは、堺でうちだけかもしれません」 そう語るのは、世界に誇る刃物の名産地に明治5年に創業し、日本刀と包丁を鍛え上げる水野鍛錬所4代目の水野康行さん。旧紀州街道の通りに面して立つ店は、外見からは鍛冶屋とは思えない瀟洒な雰囲気。しかしショーウインドー内には「住吉大社御神刀鍛錬、法隆寺国宝修理」などの木札が掲げられ、飾られた昔の大きな刃物が歴史の重みを漂わせます。店内に踏み入れば、プロ用の和包丁から家庭用包丁、はさみやナイフまで各種刃物がズラリ。その研ぎあげられた輝きに圧倒されます。

水野鍛錬所は代々その腕が見込まれ、昭和22年の法隆寺大改修の際には、国宝五重塔九輪にある四方魔除け鎌を、法隆寺の境内で、「鍛鉄降魔」の古式を踏まえて鍛えたという歴史を有しています。また、毎年、全日本学生相撲選手権優勝者へ送る記念刀も鍛刀し、元横綱輪島関など歴代の名力士がその素晴らしい日本刀を所有しているそうです。

(写真左下)法隆寺五重塔九輪に奉納された四方魔除け鎌と同じ鎌を手にする4代目社長。法隆寺を解体した時にあつめられた古釘を鍛え直したもので、店内には聖徳太子時代(?)かもしれない古釘も展示。この鎌や釘は手軽に持たせてくれ、魔除け体験ができる。

所狭しと刃物類が並ぶ店内。手にとって持ち重みや使いやすさを確かめられる。


妥協のない職人の技と情熱で 鉄に命を吹き込むがごとく鍛え上げる。

水野鍛錬所では店舗奥にある工房で、今も昔ながらの鍛錬で、刀や包丁をつくり続けています。例えば日本刀の火造り・鍛造では、火床に松炭を用いて炭火をおこし、鞴で風を送りながら鉄の塊を真っ赤に熱して打ち鍛えます。何度も熱しては叩くことでリンや硫黄などの不純物を飛ばし、金属組織を強靱にしていくのです。その作業は火花飛び散る過酷な熱さとの闘い。重いハンマーを渾身の力で振り上げ、的を絞ってぴたりと鉄塊に振り下ろすのは、長年の修業なくしてはできません。

包丁も同様に熱して叩き、弾力としなりを加えながら薄く延ばしていきます。こうして鍛造した鋼に、成型・刻印などを施した後、硬度と切れ味を高める焼き入れを行います。焼き入れは再加熱した刃をタイミングを見計らって一気に水に入れ急速冷却するもので、これまた緊張の一瞬。細かな工程の一つ一つに熟練の技が極まります。

白装束に身を包んだ三代目昭治氏による火造り。鍛鉄降魔という言葉のごとく神聖な雰囲気と、飛び散る火花をびくともしない職人の気迫に気圧されるばかり。


堺の包丁は鋼と地金を合わせた片刃包丁と、地金に鋼を割り入れた割込包丁があり、見た目とは相反する驚きの軽さと使いやすさが自慢。

堺打刃物が国の伝統工芸品に指定される以前の1981年に、三代目の水野昭治さんが全国伝統的工芸品展に和包丁(本焼柳刃)を出品し、中小企業庁長官賞を受賞しています。
16世紀にポルトガルより伝来したタバコの葉を刻む包丁の製造で隆盛を誇った歴史を持つ堺打刃物。
600年以上連綿と継がれ伝統工芸品として伝承される技術を、水野鍛錬所は守り続けられています。

その堺の包丁は柔らかい地金と硬い鋼を鍛接してつくる片刃包丁が特長。地金が折れ曲がりにくいしなりを、片面全面の鋼が抜群の切れ味を発揮し、研ぐことによって常に変わらぬ切れ味が続きます。これが料理人に愛される所以。水野鍛錬所では、「道具は使ってもらってこそ価値がある」との信念のもと、使い手の要望に耳を傾けて工夫を重ね、てっさ用の河豚引包丁を考案している。また家庭の台所で使いやすいものをと考えられた割込包丁も特長の一つ。実際に使ってみた人がプレゼントにされたり、数年後に同じものをというリピーターが多い台所包丁。一本の包丁からまっすぐ貫かれた情熱と誇りが伝わってきます。

家庭用にお薦めの台所包丁。写真・上が驚くほど軽くて使いやすい地金に鋼を割込んだ本鍛錬。
写真・下が鋼だけでできた切れ味抜群の本焼。

料理人に支持される最高級の刺身包丁各種。写真・中央は水野鍛錬所が考案し全国で使われて和包丁の定番のひとつとなった河豚引包丁。水野鍛錬所製にはふぐのマークが刻印されている。


堺刃物の切れ味を世界に広げたいと熱っぽく語る、4代目の水野康行さん

4代目・水野康行さんよりメッセージ

丹念に鍛え上げた刃物は本当に美しく使いやすい。 職人の技の光る道具は日々の生活に潤いをもたらします。

一本の包丁は鍛造、研ぎ、柄つけなどそれぞれ専門の職人さんの分業で仕上げられています。鍛冶屋がいい加減なものを作ると研ぎ屋から怒られる。研ぎ屋がいい加減だと全体を見極めるプロデューサーからしかられる。負けたくない一心でいい物をつくろうと切磋琢磨するから、本当に良い包丁ができるんです。堺の包丁はよく切れるのでラクに作業ができ、料理が美味しくなります。刃保ちがいいので研いでいけば小さくなるまで長く使えます。毎日使うことを考えれば、決して高い買い物ものではありません。何よりいい道具を使うことは、丁寧な暮らしに通ずるのですから。ぜひ一度手にとって、使い勝手のいい一本を見つけてくだい。

※掲載情報は、取材時点のものです。現在の情報については、直接お問い合わせ下さい。

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